混沌の騎士団

コールドリーディングについて

Fra sol phoenix

今から10年ほど前、セラピスト石井裕之氏の『一瞬で信じこませる話術コールドリーディング』が流行し、コールドリーディングと言う言葉は広く知られるようになった。石井氏の本は精神世界・オカルトのコーナーに置かれていることは珍しく、主にビジネス・自己啓発のコーナーに置かれていた。人を信じ込ませるような会話テクニックを求めるビジネスマンが多いから、石井氏の本もビジネス書として刊行されたのであろう。もっとも、偽占い師の会話テクニックを教えます、と言うキャッチコピーの本が偽占い師の本の中に並べてあったならば、それは強烈なブラックユーモアであろう。だがしかし、この本は精神世界・オカルトの読者こそ読むべき本なのである。

コールドリーディングとは、石井氏の定義によれば、「まったく事前の準備なしで初対面の人を占うこと」「人の心をその場で読むこと」を言う。偽占い師にそんなことができるのか、と思うだろうが、これを会話テクニックだけで行うのがコールドリーディングであるし、現に偽占い師以外にも多様な人種が意識している・いないの有無を問わずこれを行っている。実際某新興宗教でも教団内の霊能者によって組織的に使用されている。実際石井氏の本を読んで練習すればある程度は誰にでもできるようになる技術であり、一般人が霊能者や占い師に期待するような魔術的な能力とは全く異なるものである。

コールドリーディングの技術的な部分を概略すると、①対象者に質問を行い、②質問に対する反応から得られた情報を分析し、③これをもとにさらに質問を行う、という一連の行為の繰り返しによって成り立っている。この繰り返しにより、偽占い師はクライアントから情報を引出していることを気づかれずに情報を聞き出し、それをあたかも霊能力であてたかのような振る舞いをし、クライアントと信頼関係を構築するのである。もっとも、実際にはなんか変だぞ?と思うクライアントがいても威圧されて突っ込めなかったりトークでごまかされたりする。ましてや、占い師や霊能者を魔術的能力に長けた存在だと誤信したりそれどころか神仏に選ばれた存在だと盲信しているクライアントは、自らどんどん話しているにもかかわらず占い師や霊能者が当てたと思い込む。占い師や霊能者は国家資格でもなければ伝統宗教の聖職者でもなく誰でも自由に名乗れる肩書であるのに、占いにはまるような人たちは最初から占い師や霊能者を権威だと思って接するのだから、巷にあふれる偽占い師や偽霊能者は本当に仕事がしやすいことだろう。

具体例を挙げてみよう。主婦である女性に、○○ちゃん、最近血が出るような怪我とかしなかった?君が出血しているイメージが見えるんだけど、①質問する。これに対して、そういえば一昨日夕食作っているときに指切っちゃって、それかな?と②答える。答えを聞いた偽占い師は、ああ、それだ!とあたかも自分であてたかのように返答し、指を切るような料理を想像して③さらに質問を繰り返していく、というものである。もっとも、①③の時点で外してしまうこともあるので、①の時点では相手の属性を知っておくことが重要になるし、③では答えに応じた臨機応変な質問が必要になるので相応の熟練が必要となる。そのためいきなりすらすらと使いこなせるというものではないが、魔術とは全くの無関係である。
最初の質問である①は、相手から情報を引出すことを目的としてなされる質問だから、当たらずとも遠からずな質問がなされることも多い。例えば、攻めてくる偽占い師は、お前は死ぬ!などとほざいてくることもある。100年前の楽観的な科学発達の予測と異なり、現在の科学では今のところ死を克服することはできないのであるから、これは誰にでもあてはまることで、別段驚くべきことでもない。しかし、偽占い師を信じきっているクライアントは驚いて、実は○○病を患っていて、予後が思わしくない、などと答えてしまう。このときに、どこの病院に通われているんですが?どういう病状なんですか?病院以外に治療は受けているんですか?などと世間話を装って②情報を引出す。さらに、この情報をベースにして脅しをかけて、クロージングと判断したら、高額な祈祷やインチキ健康食品、霊能者グッズを売りつける。霊感商法のやり口は大体こんなものである。

霊感商法というダイレクトな表現はされていないが、ネットや書店の精神世界のコーナーにあふれかえるスピリチュアルは霊感商法と言って差し支えないものが珍しくない。よくわからないが凄そうみたいなプロフィールの占い師も大多数がそうである。占い無料だけどメールアドレスを送らないと結果が見れないものなんて全部詐欺と言って差し支えない。残念だが現代社会は嘘と欺瞞で溢れかえっている。そして、一見嘘や欺瞞がら最も遠いところにいそうな高潔な存在と思しき霊能者や占い師、スピリチュアル産業、こいつらこそどの業界よりも嘘と欺瞞を売り物としている連中であり、世間のイメージと実体とが180度異なる存在なのだ。

ここまで読んできて、石井氏は霊感商法のやり方を教えているとんでもない人物を思った読者もいるかもしれないので念のために書くが、石井氏はコールドリーディングの悪用を推奨していない。むしろ、信頼関係を築き上げ人間関係を円滑にするための技術であると言っている。要は技術自体に善悪はなく使う人の心がけ次第ということなのだろう。

私が述べてきたことは、スピリチュアルの本をどれだけ読んでも書いていないことだと思う。スピリチュアルの本を読めば読むほど、その世界観にはまっていき、自称スピリチュアルの偉い人の話を客観視してみることができなくなる。スピリチュアルに興味を持つ方は、たまにはスピリチュアル業界の仕組みがどうなっているのかを勉強してみることも必要だろう。コールドリーディングを見抜けるようになれば、本当の占い師や霊能者と出会えるかもしれないし、舌先三寸で人を食い物にする業界の食い物になることもなくなるかもしれない。いずれにせよ読者にとって不利益になることは何一つないのだから。